オペラ座の夜ACT4 「伝統か?革新か?」
PRESENTED BY TSUTOMU SHIMOGUCHI

更新日07.11.14 コメント:0件 トラックバック:0件

VERDI-S.JPG■オペラに少々でも触れてみると不思議な光景に出会うケースがある。それが終演後、カーテンコール時の「ブラボー」と「ブー」のかけ声である。その公演に満足したオーディエンスが感動や感謝を込めて「ブラボー」とやるのに対し不満足を態度に表すために「ブー」を送るのである。

■「ブラボー」とはイタリア語で「良い」という意味。対する「ブー」はブーイング。つまり「悪い」ということになる。この両方が入り乱れると得てして終演後の食事中などで白熱の議論が繰り広げられたりするのである。一種の儀式のようなものという気さえする昨今の上演での「ブラボー」と「ブー」。本当に良い悪いだけだろうか。もしかすると単に想定外のことが起きたにすぎないのではないか。

20071114newromio.jpg■こんな例を挙げてみよう。1997年に公開されたバズ・ラーマン監督、クレア・デインズとレオナルド・ディカプリオ主演映画「ロミオとジュリエット」。舞台を現代に置き換え今を生きる私たちに近しい作品として演出された。ディカプリオが今風のかっこよさやテンポ良いカット割りなどで新しく蘇ったわけだ。
この作品でもうひとつ有名なものがフランコ・ゼフィレッリ監督、オリヴィア・ハッセーとレナード・ホワイティング主演によ20071114romio.jpgる「ロミオとジュリエット」。1450年頃として描かれたこの演出はシェイクスピアの戯曲の再現を試みている。つまり伝統的な衣装に身を包み演じられていくのだ。後者の方を期待してもし前者を観たらどうなるか。心の準備ができていない人は拒絶してしまうというのが本音かもしれない。これがオペラの上演で起こるのだ。
素晴らしい舞台に大満足だったという人は「ブラボー」。対してその人が思い描く舞台とはかけ離れていた、つまり想定外なんてことになると「ブー」となるわけだ。

■ではどうして「伝統的な舞台」と「革新的な舞台」が存在するのか。
お偉い人は「過去の遺産を未来に正しく伝えなければならない」と言えば一方は「現代に生きるオペラとして上演しなくてはならない」なんてことになったりするだろう。
まあそんな難しい話は専門家に任せるとしてオーディエンスとしては好みの方を選択して楽しめば良いってことである。ではそれをどうやって見比べるのか。手っ取り早いのは公演の演出家を調べるのがいい。その人の名前をネットで検索すればどんな仕事をやってきたか簡単にわかるはず。考え方が自分にあっていれば行き違い、なんてことは起こりにくい。

20071114oepra41.JPG■もっと簡単な方法はチラシなどのパブリシティーを見る方法。例えば来年、春、新国立劇場で上演される「AIDA」。(エジプトを舞台にした愛憎劇。中でも「凱旋行進曲」はオペラの中でも最も華やかな場面といえる。演出によっては人々や馬なども登場しての大行進となる。サッカーの応援時に歌われる曲としても有名。)“巨匠ゼッフィレッリの演出で古代エジプト世界が舞台に蘇り、美麗かつ豪華絢爛な舞台美術は息を呑むばかりです”となっている。この文章からも伝統的な舞台が観られると想像できる。対して同じく来春上演される「AIDA」だが革新的な舞台となるであろう作品がオーチャードホールで上演される。“オペラを観る”衝撃と喜びを、あらためて体感しよう、と言われるこの舞台は「衝撃」という言葉からわかるように伝統的ではないもの、つまり革新的な舞台と想像されるわけだ。この辺りをしらべて行くと自分の好みの作品に巡り会う可能性が高いはず。
これであなたも終演後、悲劇のブーイングをせずに思い切り「ブラボー」と叫ぶことができるかもしれない。

■最後に前回に引き続きジャンルにより楽しめるオペラ作品を羅列してみる。
今月はちょっとひねってみる。昨今の映画は原作ものが映画化される、なんてことも多いので“有名な原作を素にしたオペラ篇”

※ヴェルディ「オテロ」
20071114otello.jpgシェイクスピア作品「オセロー」を素にしたオペラ。戯曲をとにかくシンプルにして一気にクライマックスへ駆け抜ける。
お薦めはこちら。3大テノールの一人プラシド・ドミンゴと帝王なんて呼ばれている指揮リッカルド・ムーティによる舞台。

※プロコフィエフ 「戦争と平和」
20071114warpeace.jpgトルストイの大作もオペラになっています。もちろん全編オペラ化するととんでもないことが想像できると思うがこのオペラは第三巻から第四巻のエピソードを中心に据えている。
お薦めはこちら。恋愛ものの前半と戦争がテーマの後半の対比に注目。

※ビゼー「カルメン」
20071114carme.jpgメリメの原作。オペラでは原作にないキャラクターも出ていたりするので違いも明確。
お薦めはこちら。スタジアム・オペラでのスペクタクルが堪能できる。

※トマ「ハムレット」
20071114haml.jpgフランスの作曲家によってオペラ化された名作。シェイクスピア版を知っているとラストは衝撃のクライマックスになること間違い無し。
お薦めはこちら。オフィーリアを歌うデッセーの演技に注目。日本語字幕が無いのが寂しい。

※シュトラウス「サロメ」
20071114salome.jpgオスカー・ワイルドの作品をほぼそのままに(ドイツ語だけど)音楽をつけた初演当時の問題作。
官能的な踊りと生首の処理にセンスが問われるといってもいい。
お薦めはこちら。ユーイングの歌心、そして役者魂に圧倒されます。

来月からは数回に分けて夏のオペラ音楽祭の話でもさせていただく。

P R O F I L E __________________________________
■下口 努(しもぐち つとむ)
opeashimoima.jpg1966年 東京生まれ
映像プロデューサー、音楽愛好家。FM横浜、J-WAVEなどラジオ・ディレクターを経てCS放送の音楽専門チャンネルに転職。テレビ・ディレクター/プロデューサーとして夏のフェスティバルやアンプラグドなど数多くの音楽番組を手がける。現在は様々なエンターテインメント専門チャンネルを運営するCS局でプロデューサーとして活躍している。共著に「ワーグナーの力」(青弓社)がある。
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