オペラ座の夜ACT5「夏もオペラ①」
PRESENTED BY TSUTOMU SHIMOGUCHI
更新日07.11.17 コメント:0件 トラックバック:0件
オペラ座のシーズンは夏、基本的にお休みである。欧州などでは長期のヴァカンスを取るらしい。よって都市には人が少なくなる。でもオペラは上演されている。ではどこで上演されるのか。これが“夏の音楽祭”である。
オーストリアのザルツブルグ音楽祭(厳密には演劇などもあるけど慣例に従う)、イタリアには古代遺跡の“アリーナ”を使用したヴェローナ音楽祭、フランスにも南欧で繰り広げられる音楽祭、日本でも松本で世界の小澤が大活躍するサイトウキネン音楽祭というのがある。これらは通常の公演と違いより一層濃いマニア層のため、はたまた観光のついでに一夏の夜のお楽しみといった様々なオーディエンスをターゲットにした上演がある。
■今回から2回にわけてこの夏、私が行った夏の音楽祭のお話をさせていただく。お付き合いの程よろしくお願いします。
まずはドイツ、ミュンヘンを中心とするバイエルン州の北。ニュルンベルグより汽車で1時間ほどの街、バイロイトで行われるバイロイト音楽祭。7月下旬から8月下旬までの1ヶ月間、ワーグナーの作品のみが上演される音楽祭である。毎年5~7演目上演され全部観るとなると1週間以上バイロイトに張り付くことになる。世界のワグネリアン(ワーグナーの熱狂的なファン)が聖地とするバイロイト音楽祭。チケットが取れにくいことでも有名で私も10年ほど待ってやっと“初めてのバイロイト詣”となったわけだ。
もっともお金に余裕があれば公認の旅行会社のツアーにのったり友の会を駆使したりして参加することはできるけど。ではなぜここは“聖地”と言われるのか。理由は簡単である。ワーグナーが自分のオペラ=「ニーベルングの指環」を上演するために建設した劇場でワーグナー自身がはじめたからだ。それまで作曲家はパトロンや劇場などのクライアントから発注を受けてオペラを書いていたのだがこの人はひたすら理想を求め劇場まで作り出してしまったという強者だ。
■実際この劇場は人が人を見るため、桟敷席で飲食をしながら楽しむために便利な馬蹄式(名前の通り蹄の形をしておりサイドの席は真正面を見るとなぜか反対側の客がよく見える。ステージを見ようとすると体をひねるので少々辛い。この形はウィーン国立歌劇場、パリのガルニエなど古い劇場が多い。)の劇場を放棄して観客全てが舞台に集中できる座席配置にした。また舞台を見る上で目障りと思ったのかなんとオーケストラが演奏するピットに蓋をして観客からは見えないようにしてしまったのだ。もちろん社交場になることを否定したので劇場のホワイエなどもなく出口を出るといきなり外となる(ただ近年はそうも行かないので別棟にレストランもある)。
私がバイロイトを訪れたのは8月上旬。東京が猛暑に襲われる直前である。なにせ初めての聖地である。気合いは入りまくり。タキシードをしっかり着込み徒歩30分の道を歩く。なにせ街をあげての音楽祭。道にワーグナー関連の名前が付いていたりして楽しい、と思ったのは最初の10分。ドイツとはいえまだ暑かった。しかもタキシード。自分の服が太陽光線を思いっきり吸収しているのがよくわかる。だくだくの汗の中、劇場が見えたときには正に砂漠の中の蜃気楼を見るようだった。そして劇場横のドリンクバーは正に“オアシス”。たとえ250ccの水代3ユーロ=500円でもかまってられない。がぶ飲みである。酒の飲める方は最高のビールを飲めたであろう。
■開演前に劇場正面では金管によりその日上演されるオペラの中から有名な旋律を聴かせてくれる。これは開演がせまった合図だ。15、10,5分前にそれぞれ演奏されるがそこは初めてのバイロイト。1回目を聞いたら早々に席につく。遅れていくと通路を通るとき他の客を立たせたりするので迷惑をかけてしまう。
着席すると早くもその座席の座り心地の悪さを感じる。というのもワーグナーの作品は長い。眠ってしまう人も大勢出てくる。そこでワーグナーは工夫した。なんと座席にクッションをつけずに(近年は本当にほんの少しクッションがついたけど)木、むき出しにしてしまった。この木のせいでサスペンダーの金具が背中に食い込み炎症を起こしたのである。みなさまも背中の金具には充分注意してください。
ほどなくして前奏曲がはじまる。この日の演目はワーグナー最後の作品でこのバイロイトの劇場で初演された「パルジファル」だ。先ほど述べたようにオケピが蓋をしているせいか音がしっとりと混ざりひとつの音となり届いてくる(もちろん蓋をしているので音量も少々小さい)。舞台が開くとそこはまるで廃墟。
■この舞台の演出を手がけたのはサブカルチャーに詳しい方ならご存じだと思うがクリストフ・シュリンゲンジーフというドイツの鬼才。映画「ドイツチェーンソー大量虐殺」「テロ2000年 集中治療室」「ユナイテッド・トラッシュ」という一種のトラッシュムービーを手がけた人物でドイツ語圏では“文化的テロリスト”などと呼ばれる人物。超メタボリックな女性が出てきたりウサギの腐っていく姿が映像で現れたり人々を挑発していくが作品の根元にある物語はかなり忠実に描いていたのが驚きだった。
ただご年輩の方を中心に大ブーイング大会になっていましたね。ではなぜこうした上演をするのか。それはバイロイト音楽祭がワーグナーの聖地であるとともに実験劇場としての側面があるから。こうして現代とコンタクトを取ることにより生き残っていく(いろいろ問題があるがそれを言い出すととても終わらなくなるのでお省略)努力をしているからだろう。
夕方4時に開演したこのオペラも途中1時間休憩2回を挟んで終演は10時半。涼しくなった道を初めての感動と共に宿泊先へ向かったのでした。
次回はイタリアで行われた野外オペラ2つを紹介しようと思う。
P R O F I L E __________________________________
■下口 努(しもぐち つとむ)
1966年 東京生まれ
映像プロデューサー、音楽愛好家。FM横浜、J-WAVEなどラジオ・ディレクターを経てCS放送の音楽専門チャンネルに転職。テレビ・ディレクター/プロデューサーとして夏のフェスティバルやアンプラグドなど数多くの音楽番組を手がける。現在は様々なエンターテインメント専門チャンネルを運営するCS局でプロデューサーとして活躍している。共著に「ワーグナーの力」(青弓社)がある。
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□バイロイト音楽祭ということでワーグナーのお薦めのソフトを紹介□
※「ニーベルングの指環」
バイロイトで初演された作品。様々な神話をワーグナーがまとめ15時間を越える大作にまとめた。この秋来日するダニエル・バレンボイムの指揮が楽しめる。このdvdを一気に観ればあなたも立派なワグネリアン。
※「パルジファル」
ニューヨーク、メトロポリタン・オペラでの上演。保守的ともいえる原作に忠実な舞台が楽しめる。冒険する前にこれを観るのも手かも。
※イメージ画像がないのでご了承下さい。
▼▽▼LOCI of OPERA- 「オペラの軌跡」-▼▽▼
※下口氏が撮影した「バイロイトの風景」ギャラリー










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