VISUAL-MUSIC♯5「デビッド・フィンチャー」
PRESENTED BY M.KAWA

更新日07.11.21 コメント:0件 トラックバック:0件

■VISUAL MUSIC5回目。そろそろ御大の登場でしょう。デビッド・フィンチャー。
映像派の監督を気にして映画などを観ている方々にとって、彼の新作は常に待ち遠しいもの。いままでご紹介してきた映像作家の中では、最もメジャーな存在と言えますが、ミュージックビデオ出身の映画監督の中で、彼は特に異彩を放っていると言えるでしょう。

何故か。フィンチャーの映像は、ただスタイリッシュなのではないから。彼の映画が持つ反社会的メッセージ、彼が好んで描く人間の本質的なダークサイドーそういったものを映像に焼き付ける「情念」のようなもの、そしてそういったテーマへの細部にわたる「固執」が、映像をスタイリッシュにさせているだけなのだと思うのです。つまり彼が描きたいのは、断じてスタイルそのものではないーこれは、最新作「ゾディアック」の造形が如実に物語っている。

31282AHTA3L._AA192_.jpg■彼のフィルモグラフィを紹介すると1992年、「エイリアン3」で映画監督デビュー。シガニー・ウィバーの執拗な脚本書き直し攻撃や、シリーズ主演俳優にありがちな完全上から目線のダメだし光線により、この映画での経験はフィンチャーにとってはかなりのトラウマになったらしい。シリーズ中最も駄作という評価を跳ね除けるように、その後1995年ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン共演の「セブン」を大ブレイクさせる。この映画は実にVISUAL MUSIC的要素が満載。話題となったオープニングは、タイトルバックの名手カイル・クーパーによるものだが、後半まで正体を現さない連続殺人犯ジョン・ドウの世界をこのクレジットシーク418MW2l-mvL._AA240_.jpgエンスで見せるというコンセプト自体は、フィンチャーが事細かに演出したらしい。二人の合作のような形で、殺人ファイルを制作する犯人の手と指を追い、ノイジーなタイポグラフィーをミックス。バックに流れる不気味にリミックスされた
“CLOSER”は、NINE INCH NAILSによるもの。この2分10秒はまさに一級のミュージックビデオ!この作品がカイル・クーパーをタイトルバック界の第一人者に仕立て上げたといっても過言ではないでしょう。また、フィンチャーはこの映画がクランクインしたばかりのところで、DAVID BOWIEに連絡を取り、エンドクレジットシークエンスのための曲を要請。
41NN3QJ34ZL._AA240_.jpgボウイは殺人現場を一種のアートとして捉えたコンセプトアルバム「アウトサイド」を制作しおり、「セブン」との内容的な符合を理解、両者の共闘関係はすぐに成立した。この映画の後、現実世界でもNINE INCH NAILSはDAVID BOWIEIと急接近し、ライブで競演したりもしたのです。その他この映画の音楽ネタはつきません。「セブン」こそがVISUAL MUSICだ!と言い切ってもいいぐらいです。さて、その後はご存知の通り、1997年「ゲーム」1999年「ファイトクラブ」2002年「パニック・ルーム」2007年「ゾディアック」と・・・彼の偏執狂的なまでの映像的な拘りの度合いは益々強まるばかりです。

■そもそもデビッド・フィンチャーは17歳の時「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」を観て強い影響を受け、映画界を志すようになったのだそうです。高校卒業後、ILMに就職。「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」や「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」などでマット・ペインティングなどを手掛け、ILMを退社後、CMやミュージックビデオの制作会社Propaganda Filmsを設立。ナイキやコカコーラのCM等を制作、ミュージックビデオでも数々の名作を残している。
 
212A8XDEKCL._AA130_.jpg■さて、彼のミュージックビデオ作品で有名なところだと、ヴォーギングというダンスのスタイルが社会現象にまでなった、MADONNA“VOGUE”、名曲中の名曲STING“AN ENGLISHMAN IN NEWYORK”、GEORGE MICHAELの大ヒット曲“FREEDOM”、AEROSMITH“JANIE’S GOT A GUN”,THE ROLLING STONES“LOVE IS STORONG”等。数は多くないのですが、名曲のミュージックビデオが多く、それぞれが優れた作品ですが、どちらかというと作品に寄り添っている感が強い。
むしろ彼の作家性が存分に発揮されてきたのは「セブン」以降の作品かもしれません。A PERAFECT CIRCLE“JUDITH”。これは確実に「セブン」のフィルム感あふれる荒廃した世界観、退廃的空気感を踏襲した作品と言える。あの「セブン」の連続殺人が行われたロサンゼルスの、どこかの埠頭の中で行われたシークレットギグ。そんな雰囲気をもったビデオである。
 
■そして、フィンチャーの最も新しいミュージックビデオは、「セブン」でも組んだNINE INCH NAILSの“ONLY”。これは明らかに「パニック・ルーム」以降の彼のビジュアルセンスが生きている。徹底した無機質。あの、ジョディ・フォスターが閉じ込められた最新型のパニック・ルームの洗練されたなフォルムや、CGを駆使した家の中を突き抜けてゆくカメラワーク。その流れにある映像センスがこの“ONLY”では存分に発揮され、今NINE INCH NAILS―トレント・レズナーがいる「地点」までも表現しているような作品に仕上がっている。
 
■最後に映画「ゾディアック」である。本作は今までデビッド・フィンチャーが貫いてきた映像のスタイリッシュさを極力排除した作品といわれ、当の本人もそのように言及している。そうだろうか。確かに本作は奇をてらった画格や映像表現、今までの色彩感覚などが、一見排除されたかのように見える演出になっている。そう、演出なのだ。彼はこの物語51grRwC-hKL._AA240_.jpgの中核となる「事件」と、それに翻弄され、人生を狂わされる登場人物達の「悪夢」、そして人間の持つ「執着心」をシンプルに、そしてダイレクトに伝えるために、一見何の変哲も無い映像スタイルにこだわったのだ。しかし、そこかしこに隠しきれない彼の映像センスは光る。湖畔での殺人シーンなどでは、湖に新たに水を引いて隆起した部分をなくし、無い木々をわざわざ植えて、実像を見せずに近づいて来る犯人を、実に不気味に映像化している。この映画で映像は、荒涼としたものではなく、研ぎ澄まされたリアリティで観るものを襲う。このように、観客はいつもフィンチャーに度肝を抜くような悪夢を突きつけられるのだ。
 
■さて、ビッグマウスでも有名なフィンチャー。彼は一流の映画監督になっても尚、ミュージックビデオを撮る理由を聞かれ、
「ハリウッドの馬鹿どもの言うことを聞かなくてすむからさ」と吹く。映像作家は斯くありたいものである。
人間の執着心を描いた「ゾディアック」は、そのまま、「映像」というものに取り付かれた彼の物語でもあるかのように思えてならないのである。
さてさて、次回はまたまたミュージックビデオ出身の映画監督ジョナサン・グレイザーをご紹介します。

■PROFILE
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M.KAWA
kawafoto.jpg1971年1月20日福岡県北九州市小倉生まれ。
最初に買ったアルバムはYMO「増殖」。レコードメーカーを経て某音楽専門チャンネルへ。現在フリーでMUSIC, VIDEO、LIVE VIDEO、音楽・映画番組のプロデューサー兼ディレクター。猫と温泉と森とノイズと白い部屋が好きな36歳。
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