オペラ座の夜ACT18 「ト書きって何?」
PRESENTED BY TSUTOMU SHIMOGUCHI
更新日08.11.07 コメント:0件 トラックバック:0件
急に秋らしくなってきたが芸術の秋を堪能していますか。10月には東京・新国立劇場の新シーズンが開幕。ウィーン国立歌劇場がわれらの小澤を指揮者に迎え彼が音楽監督としての最後の引越公演も実現。特にウィーン国立歌劇場の引越公演は「コジ・ファン・トゥッテ」「フィデリオ」などどれも一見、ト書きに忠実な舞台として好評を博した。というのも昨今の演出過剰の舞台を好まないファン層もいるわけでそうした人たちのニーズにずばり当たったということだろう。
ではこのト書きとはいったいなんだろう。
■辞書を調べてみると、「脚本で、せりふの間に、俳優の動き・出入り、照明・音楽・効果などの演出を説明したり指定したりした文章。」とされている。つまり上演に不可欠な進行を記した言葉と言えるだろう。
演出過剰な舞台に疑問をもつ人たちは作曲家や作詞家が作品の初演当時必死に考えたト書きを無視して舞台に上げるのはいかがなものか、と問題定義しているのだ。わかりやすくいうと舞台設定を移し変えていいのかということだ。
ヴェルディ作曲の名作で「女心の歌」等すばらしいアリアがたくさんある「リゴレット」のト書きによる舞台は北イタリアのマントヴァ。女ったらしでもあるマントヴァ公爵に仕える道化リゴレットの愛娘ジルダがこともあろうにそのマントヴァに惚れてしまったことから始まる悲劇。
■今回、新国立劇場で上演された舞台はそうしたト書きにほぼ忠実な舞台となった。
ところが世の中を見回すと舞台を現代、しかもギャングの抗争に置き換えた舞台も存在する。あなたはこうしたことは作品へ対する冒涜と思うでしょうか。ではこのト書きは本当にもともと作曲家が理想として作り上げたものだろうか。
答えは必ずしもイエスとはいえない、ということ。考えてみよう。このリゴレットの原作はユーゴーの『王は愉しむ』。この原作を使用することで最初の妥協がおきる。このタイトルのままでは露骨過ぎて検閲が通らないと思ったヴェルディは「呪い」を候補に上げた。ところが当局側はこのままでも上演を禁止。また内容もいくつかの改定を通達される。そうした紆余曲折があり「リゴレット」としてどうにか上演にこぎつけている。つまり作曲家として構想されたものが初演当時のト書きに100パーセント理想できたかどうかは不明。もっと単純な例を考えよう。舞台の転換する時間が機構の問題により瞬時に行えない。このことにより作曲家は間奏曲を予定より長めに書き換えたりもする。
■つまり現実問題から理想からまた違い形のものを作り上げたりもしている。
そうした時の流れを経てこうした慣例に疑問をもった演出家が本来の作品のもつ意味を具現化しようと思い見た目には斬新ながら目的をもった上演が行われたりする。こうした考えで生きている作品として捕らえているのだ。
しかしこちらが好きかは最終的には受けての観客が決めること。今日見たオペラが自分は好きか、嫌いかを判断すればいい。目くじらをたててト書きと違うとか舞台にスリルがないと怒るのは紳士、淑女のすることではないと思うのだが。というのもそのト書き自体が疑わしいものだから。それよりは嫌いなら二度とその人たちが手掛けた舞台に足を運ばなければいい、だけのこと。
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▼小澤征爾さんのプロフィールはこちら(小澤征爾音楽塾より)
http://www.ongaku-juku.com/j/history/profile_ozawa.php
▼「東京新国立劇場」の公式Webサイト
http://www.nntt.jac.go.jp/
■P R O F I L E ___________________________________________
■下口 努(しもぐち つとむ)
1966年 東京生まれ
映像プロデューサー、音楽愛好家。FM横浜、J-WAVEなどラジオ・ディレクターを経てCS放送の音楽専門チャンネルに転職。テレビ・ディレクター/プロデューサーとして夏のフェスティバルやアンプラグドなど数多くの音楽番組を手がける。現在は様々なエンターテインメント専門チャンネルを運営するCS局でプロデューサーとして活躍している。共著に「ワーグナーの力」(青弓社)がある。
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