VISUAL-MUSIC♯13 「Sean Ellis」
~写真家出身の監督「ショーン・エリス」~
PRESENTED BY M.KAWA
更新日09.01.30 コメント:0件 トラックバック:0件
お前は勝ったのだ 私は降参する
だが これより先は お前も死んだ
この世に対し天国に対し 希望に対し死んだのだ
私の中にお前は生きていた
私の死でお前がいかに 自分を殺したかを見ろ
お前自身のものである この姿で見るがいい
エドガー・アラン・ポー「ウィリアム・ウィルソン」より
これはショーン・エリス監督最新作「ブロークン」の冒頭で引用されたエドガー・アラン・ポーの短編の一節である。鏡の中に存在するドッペルゲンガーにおびえる主人公。「ブロークン」はそんなオーソドックスなストーリーライン。ポーの短編「ウィリアム・ウィルスン」がその発想の原点だったとしても納得がいく。この一見ありがちなテーマを独自のビジュアルセンスで見事なサスペンスに昇華させた男
--それが今回ご紹介する写真家出身の監督ショーン・エリスだ。
ショーンは、11歳から写真を撮り始め、スティール・カメラマンとしてキャリアをスタートさせる。1994年にロンドンに移り、ファッション写真へと転身し、"i-D"、"The Face"、"Arena"、"Arena Homme Plus"、"Visionaire"、"Dazed and Confused"、"Numero"、"Vogueなど一流ファッション紙を手掛け、"The Independent"紙ではイギリスのフォトグラファートップ10の1人に数えられるまでになる。また、エルトン・ジョン、北野武、トレント・レズナー、カイリー・ミノーグ、エリック・バナ、ステラ・マッカートニー、リチャード・アシュクロフトなどアーティスト達の写真も多数手掛ける。
そして最も特筆すべき事柄としては、"Harper's Bazaar"誌では、ファッション・イメージのシリーズで「イレイザーヘッド」「マルホランド・ドライブ」でおなじみの奇才デイヴィッド・リンチとコラボレーションしている。この出来事は、否が応でも最新作「ブロークン」のビジュアルセンスに結びつけて考えてしまう。
彼はミュージックビデオも出がけており、All Saintsのビデオ"Never Ever"は、1998年 Brit Awardのビデオ部門を授賞。内容は特に個性的といった感じではないが、まさに雑誌の表紙のように艶やかな彼女達の美を切り取りながら、8mmフィルムテイストで無邪気な素顔をインサートする手腕はさすが。"プロモーションビデオ"の王道といった趣だ。
▼All Saints - Never ever
また、Lambというマンチェスター出身のデュオのビデオ「Gabriel」では、トリップホッップ的なサウンドメイキングにぴったりな映像美と、ほんのりと生命の儚さみたいなものも感じさせる演出が光っている。ボーカルであるルー・ローデスの顔を光で飛ばして幾重にもオーバーラップさせたイメージと、ビルからビルへとジャンプする青年のイメージが交互に描かれてゆく。個人的には、大天使ガブリエルのイメージを重ねるのは若干の安直さも感じるが・・・
▼Lamb-Gabriel
CM作品としては、ジャン・ポール・ゴルティエ、ランド・ローヴァー、リンメル、O2など。
以下のNIKEのCMは瞬間瞬間を美しく切り取る彼の写真家としての資質がすでに開花している。
▼Nike directed by Sean Ellis
その後、リドリー・スコットのプロダクションRSAのプロデュースで、2001年に最初の短編"Left Turn"(サイコ・ホラー)を発表。
未解決の猟奇的事件、大雨の日のヒッチハイカー、黄色いレインコートの謎の人物、カバンに詰まった刃物......。
ストーリーの答えを示さない描き方、何かを臭わせて見る者を考えさせる(突き放す?)手法等は、まさにリンチワールドに近い。故に"Left Turn"とは、助手席に誰かをのせているかもしれない「あなた」への警告ともとれるのである。
▼Left Turn - Part 1 of 2
▼Left Turn - Part 2 of 2
続いて2004年に"Cashback"を発表した。
"Cashback"は、米国アカデミー賞短編部門にノミネートされたほか、シカゴ国際映画祭の短編部門でゴールド・ヒューゴー賞(グランプリ)を受賞するなど、高評価を受け、
2006年に長編版"Cashback"(邦題『フローズン・タイム』)を制作した。
▼『フローズン・タイム』予告編
「フローズン・タイム」の主人公ベンは画家志望の美大生。恋人にふられたショックで不眠症に。そこで、眠れない時間をお金に換える(原題:Cashbackはここからきている)ー深夜のスーパーマッケットでのバイトを始めることに。そこには、イカレたいたずら好きの悪友コンビ、ブルース・リーおたく、時間恐怖症のレジ係など駄目な若者達の巣窟。2週間の不眠の末、ベンはついに時間の観念を失い、時間がフリーズした世界を生き始める。--この静止した世界を生きるというコンセプトに、監督の写真家としての視点が生きる。恋する瞬間に時間が止まるという演出はよくあるものだが、この映画ではその瞬間が徹底的に美しく描かれる。人間は実はそんな「瞬間」の連続性の中で生きているのだと、改めて気付かされる。
「フローズン・タイム」は主人公の主観の世界を拡大解釈して、世界そのものとする、一種の「脳内映画」の一つといえるかもしれない。
そして最新作「ブロークン」である。前作は恋愛ものだったが、今回はあらためて"Left Turn"のころの原点に返ったサイコホラー。鏡の中のもう一人の自分--という主題は、極度にオーソドックスであり、様々な映画で反復されてきたコンセプトではある。最近の映画でもキーファー・サザーランド主演の「ミラーズ」、TVシリーズ「ヒーローズ」(もう一人の自分が鏡の中に見えるキャラクターが登場)などはまさに同じコンセプトを利用している。が、「ブロークン」はそれらとは一線を画す出来。
▼映画『ブロークン』予告編
この映画--とにかく画面構成や色使い、そして音の使い方に注目。
極端な陰影を醸し出す、ほとんど自然光を生かした照明。シンメトリーを意識した構図。不吉な事が起こる前に必ず印象的な「赤」が画面に登場。(ニコラス・ローグ「赤い影」へのオマージュ)。ここではダークな色彩でテレシネした後、鮮明な赤のみを戻すという手法をとっているよう。そしてヒッチ・コックの「サイコ」を連想させる、無音部分と引き裂くような音像のBGMのギャップの効果的演出。どこをとってもポストリンチ的資質を伺わせつつ、新世代の映像感覚を提示する。
何よりも映画の中で結論を描こうとせずに、観客の想像を喚起するアンチハリウッドエンディングは彼の美学、そして決意のようなものを感じる。
ショーン・エリスの絵作りは
「美しくなければ映画ではない」と言い切って
しまうような潔いまでの説得力を持ち合わせている。
![]()
▼Sean Ellis Official Website
http://www.sean-ellis.com/contents.html
■PROFILE
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M.KAWA
1971年1月20日福岡県北九州市小倉生まれ。
最初に買ったアルバムはYMO「増殖」。レコードメーカーを経て某音楽専門チャンネルへ。現在フリーでMUSIC, VIDEO、LIVE VIDEO、音楽・映画番組のプロデューサー兼ディレクター。
猫と温泉と森とノイズと白い部屋が好きな37歳。
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